2011年10月5日水曜日

明峯哲夫&永田まさゆき「自給的くらしの意義~震災後の社会再構築に当たって」

10月2日は札幌市西区小別沢の「農的くらしのレッスン」を訪ねました。

「くらしのレッスン」を主宰している永田さんは、東北の被災移住者に住居や物資を提供する「むすびば・受け入れ隊」の代表として、この春からこれまで約150世帯の受け入れ支援をしています。今後は、物資提供よりも、心のケアや就労など自立支援のウェイトが高くなるだろうというお話でした。永田さんは被災者に対する一般市民の態度について、ユーチューブの情報収集には熱心でも、実際は何も行動しない「ユーチューブリック」だと表現しています。ドアを開ければわかるのにモニタ越しにしか問題を見ず、自分ごととして感じたり、助けの手を伸ばすことをしない人びと。地球の裏側の悲劇も隣人の苦しみも映画の世界にしか見えないのは現代人の特徴でしょうか。被災移住者の置かれている環境はいろいろな面で厳しく、心から同情せざるを得ませんが、これまでの近代都市生活が破たんしつつある中で、たまたま被災せず一見何事もなかったかのように暮らしている私たちだって抱えている問題は同質です。原発から脱却するためにも、この機会に自給的な生活を見直すべきだという永田さんの主張に強く共感しました。

明峯先生の講演タイトルは「天国はいらない、故郷を与えよ」、ロシアの農民詩人エセーニンの言葉です。近代化の過程で農村を追われ、仕事を都市に求めた人びとは土着性をなくし、地方は疲弊しました。人びとが「天国」と憧れた都市生活は、便利で快適で、賑わいに溢れていますが、自らが必要とする食糧を農村に依存し、大量生産、大量消費の仕組みと膨大なエネルギーに支えられてきました。原発のニーズもこの延長に生まれています。 このパラダイムは実に前世紀100年をかけて成り立っており、すでに維持不能な状態にありました。
「3・11」は、このシステムの現実的な終焉であり、「天国」を求め続けてきた時代の終わりだと明峯先生は語ります。これからの社会の再構築にはエネルギーの問題だけでなく、医療や福祉や教育や産業などさまざまな分野の知恵を統合し、小さな地域単位で自給、自立していく発想が必要だ。そして、天国を失った人びとの行先は故郷、すなわち自然と共生する自給的な暮らしに他ならないと。

先生がここで言われる21世紀の故郷は、伝統的な地縁社会のことではなく、個人が自由な意思で決定する新しいイメージでの「我が故郷」です。「一所懸命に生きる」場所が故郷になるという先生の言葉を聞いて、私はエコビレッジを思い浮かべました。故郷に生きる人びとにとって生きるとは、土地に依拠し自然の恵みを受けながら暮らすことです。だから農山漁村の人びとは土地に対する強烈な思いがあり、今回の震災の打撃は大きかったのです。それでもすべてを受け入れ、いつか復興させようと留まって農業を続ける人びとを先生は希望と呼んでいます。自然と共に生きる人びとは確信があるとも。溢れるほどの物質と情報に囲まれても、現代人が常に不安なのは、そういう確信がないからでしょう。

すべてを受け入れるという意味で、先生は、すでに大量の放射性物質が放出されてしまったこの期に及んで数値を前提にリスクゼロを追求するのは幻想で、放射能に汚染された自然とも共生していくリスクシェアの考え方が必要だと言われました。たとえば食べ物であれば、数値で示せる安全よりも、誰がどのように作ったかがわることで生まれる安心のほうが重要だと強調されています。
放射能汚染された食べ物を「食べる」「食べない」にについては、議論の分かれるところでしょう。
私は政府が正しい情報(=事実)を開示して、そこから先の判断は個人に委ねるのがよいと思っていました。情報が不足したり曖昧だったりするから人びとが不安になると。でも、放射能汚染については安全か危険かの線引きが基本的にできないから、政府や企業の情報によって不安を取り除こうとする人びとは、どんな情報にも安心できないかもしれません。事実(数値)を見て安心しようとするのは近代的感性ですが、徹底的に事実を究明しても、それは必ずしも真実を意味しないという先生のお話を聞きながら、不安の材料は情報(外界)ではなく内にあるのかもしれないと深く考えさせられました。

不安に長生きするよりも、短くても確信をもって生きることができるなら、それは納得のいく生き方だろうと思います。「食べる」「食べない」「避難する」「留まる」は、それぞれの生き方に照らし合わせて一人ひとりが決定すべきことで、それぞれが正解なのだと明峯先生。もっとも、その問いはまさに「いかに生きるか」という人生の命題なので、明快な答えを出すのは簡単ではなさそうです。私自身は自分と仲間の故郷としてエコビレッジを創造するというミッションを改めて感じました。

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