2011年5月4日水曜日

開講特別講義 新得共働学舎から宮嶋望さん

開講特別講義として、十勝新得の共働学舎から宮嶋望さんをお招きしました。お馴染みメノビレッジ長沼の月例勉強会と共同開催です。




北海道にはまだ「エコビレッジ」の看板をあげているコミュニティはありませんが、実は新得の共働学舎やメノビレッジは、実質的なエコビレッジの先輩、つまり、環境に負荷をかけない食と農を実践し、そしていろいろな人が互いに助け合い、資源やモノをシェアしながら経済的にも小さな規模で、でもちゃんと自立しているコミュニティとして学ぶ点が多いと思います。有機的な食物生産はもちろんですが、共同農場やエコハウジングのプロジェクトにはない、コミュニティ生活や持続可能な経済システムなどのソーシャルデザイン面でも、共働学舎やメノビレッジの取り組みは、エコビレッジの要素がバランスよく入っています。

新得共働学舎は1978年、「自労自活」を掲げ、農場30haを譲り受けて、宮嶋さんをはじめ6人のメンバーが立ち上げました。当時は無一文だったそうです。今では農場が96ha、メンバーも70人に拡大されました。メンバーの約半数が何等かの障がいや社会的自立に困難を抱えた人たちですが、本人の自主性を全面的に認めた仕組みで運営しています。ルールや規制は作らない、本人が「やる」と決めたことに責任を持つ、それぞれのメンバーが自らの人生を主体的に捉え、自ら課した任務を全うすることが大事、と宮嶋さんはおっしゃいます。


このようなソーシャルファーム(障がいのある人びとの自立を支える社会的企業)の動きは全国でもありますが、生産性の低さから実質的な経営は寄付金や補助金で成り立っているチャリティ的な団体が少なくありません。宮嶋さんは、メンバーのゆっくりなペースをそのまま活かして市場で勝負できる、という視点でハード系のナチュラルチーズを生産品に選びました。そして自ら仏式製造のチーズづくりを学び、独自のエネルギー理論に基づいて圃場や施設を建設したのです。



共働学舎では、自然素材の畜舎と大量に埋められた炭が、エネルギーの流れや微生物の動きを活発にしています。「流れる水は腐らないが、よどんだ水は腐る」ように、エネルギーの流れによって地中に水道が通り湿気地の改善もできるそうです。牛舎の下にも炭埋めをしたおかげで臭いもハエもほとんどわかない環境になったと宮嶋さん。それらの研究努力が実って、共働学舎のチーズは国内外で金賞、グランプリを獲得しました。今では生産が追い付かないほどのマーケットがあるとか。



もう一つ、私が共働学舎で着目しているのは、オーストリアの哲学者シュタイナーが提唱するバイオダイナミック農法です。バイオダイナミックによる農場は、ヨーロッパでいくつか見学しました。パーマカルチャーや福岡式自然農と並んでヨーロッパの有機農業の一つの主流だと思われますが、少なくとも私が視察した限りでは、バイオダイナミックは最も生産性が高く、どこも美しく管理されていて、以来興味を持っていました。牛糞を牛角に入れて混ぜる儀式(と呼ばれます)などオカルトっぽい雰囲気に躊躇したのと、シュタイナーの本が難しくて読めなかったことが理由で、これまで真面目に勉強したことがなかったのですが、宮嶋さんはそれらが単なる「おまじない」ではないことを科学的に説明してくれました。


バイオダイナミックは土と植物の関係性だけでなく、植物のエネルギーに影響を与える天体の動きにも着目した理論です。日の出前の波長の短い光はエネルギーが高く、酵素を活性化し、植物を活動させる。なるほど、だから農家は早起きじゃなくちゃダメなんですね。
チェルノブイリの原発事故の後も、バイオダイナミック農法で栽培された作物からは放射性物質が検出されなかったという報告もあるそうです。エネルギーや微生物の活動が活発で、植物体が十分な栄養素を備えていれば不要なものを取り入れないということでしょうか。



悩みやトラブルを抱えた人たちを「社会が解決できない問題を身をもって示してくれるメッセンジャー」と呼び、常に迎える姿勢を持っている宮嶋さんと共働学舎の取り組み。技術面、精神面、社会面で多いに学ぶところの多いプロジェクトだと改めて思いました。

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